Substack2026年デビュー同期の皆様、はいかがお過ごしでしょうか。
私は日々、記事を読みたいライターさんも増え、タイムラインでの交流もでき、楽しくのんびりとしたSubstack生活を送らせていただいております。仲良くしてくださり、皆様ありがとうございます。
今回記事としてまとめたのは、私が Substack の思想を理解したいなと思って読んできた創業者発の記事などを整理したものです。印象的だった部分はピックアップして翻訳も併記していきますが、元の英語記事を読まれる方はPCブラウザにて翻訳機能を使って読むなどがおすすめです。(英語がスラスラ読めるようになりたい)
一通り読んで感じたのは、創業者たちが「メディアと社会の関係をどう作り直すか」を考え続けてきた場所がSubstackなのかな、ということです。
彼らの記事を読むと
なぜこの場所がこういう作りになっているのか
なぜ広告がないのか
他のSNSと違うと感じるのは何故か
ということがなんとなく腑に落ちてきました。
あくまでも創業当時から直近に至るまでの思考や実践の変遷なので、今この時点で彼らがどう考えているかや、これからSubstack自体がどのように変化していくかは注目が必要です。
Substack歴史を知る、という主旨で今回はカテゴリーに分けて、合計 14 本を選びました。気になる記事があれば、お時間のある時にゆっくりお読みください。(Substack歴の長い諸先輩方は、お手柔らかにお願いします)
[2026.6.3 追記]後で読み返しやすいように目次を入れておきました。
目次
Substack‐コンテンツガイドライン
ルールブックではなく「どんな場をつくりたいか」の宣言として読める。
1-1. Society has a trust problem. More censorship will only make it worse
問題は「情報」ではなく「信頼」で、検閲はそれを損なうと説く一次資料。1-2. In service of writers
「創業はライターに力を与えるためだった」と、理念を語り直した文章。
2-1. Why we built a social network
アルゴリズムではなく人の口コミでタイムラインを編む、という設計思想。2-2. Now is the time for creators to build on their own land
「借り物の土地」に依存するリスクを、家と土地の比喩で語る。
3-1. Substack’s view of content moderation
「決定権は書き手と読み手に渡す」というラインの原点。3-2. Escape from Hell World
去った人気書き手へ「彼が去る力を持っていたことを誇りに思う」という姿勢が表れた一本。
4-1. A new economic engine for culture
広告依存の何が壊れ、サブスクで何を作り直すのかを端的にまとめた文書。4-2. Why we pay writers
書き手へ直接対価を払う取り組みと、その背景にある考えを説明した記事。
5-1. From the temple to the garden
メディアのあり方を「神殿」から「庭」への移行として捉えた、メディア観の転換を描く比喩的な一本。5-2. Civilization on the electronic frontier
ネット空間を新たなフロンティアにどんな秩序=文明を築くかを論じた思索的な記事。5-3. A simple vision for the future of media organizations
これからのメディア組織はどうあるべきか、Substack視点で描いた未来像。
6-1. The AI revolution is an opportunity for writers (the human kind)
AI時代に「人間が書くこと」の価値が上がる、と機会の側から捉えた記事。6-2. The Substack AI Report
Substack上でAIが実際どう使われ、どう受け止められているかを調査・整理したレポート。
0.コンテンツガイドライン
まず創業者の記事うんぬんに行く前に、ぜひ読んでほしいのがこの「コンテンツガイドライン」です。利用する前にガイドラインをちゃんと読むのは当たり前だろ!という正論は横に置いておいて、改めて読んでみるとSubstackの思想をふんだんに感じ取れる文章となっています。
Substack のコンテンツガイドラインは、表現を縛るルールブックというよりも「どんな場をつくりたいかの宣言」として読めるので、まだ読んでいない方はぜひご一読を。
Substack‐コンテンツガイドライン
最初に印象的だなと思ったのは「多様な思想と議論を歓迎するという姿勢」が冒頭で明確に出ていることです。論争的なテーマについても、それを排除するのではなく、健全な言論の一部として位置づけているのが伝わってきました。
“We host and celebrate a diverse range of thought and discussion.”
(私たちは多様な考え方や議論を歓迎し、称賛します。)“critique and discussion of controversial issues are part of robust discourse.”
(論争的なテーマに対する批評と議論こそが、健全な言論の一部である)
その一方で、物理的な脅迫や、属性を理由にした暴力の煽動、プライバシーへの攻撃、なりすまし、剽窃、児童加害といった「議論ではなく加害になってしまうもの」については、はっきりと線が引かれています。
言論の自由は最大限残しつつ、最低限の安全弁だけは設ける、というスタンスを感じます。言論の自由を盾に何言ってもいいだろ!的な、人を傷つけるような記事はお断りって事ですね。
それから、Substack らしさが滲んでいるなと感じたのが、自分たちのプラットフォームを「メールマガジン配信ツール」ではなく「編集コンテンツの場」として定義しているところでした。購入したメールアドレスのリストや、マーケティング目的のパブリケーションは明確に断っています。
“Substack is intended for high quality editorial content, not conventional email marketing.” (Substack は質の高い編集コンテンツのための場所であり、従来型のメールマーケティングのための場所ではない)
Substackではあくまでも良質な記事を書くライターに対して直接課金をしてもらう、というのが設計思想。例えば以下のような、いわゆる「メルマガ広告」的な事を発信する場所じゃないよ、という宣言と受け取りました。
EC のセール・新商品告知メール
アフィリンク中心の newsletter
トラフィック誘導メール
クーポン・ポイント配信メール
「コンテンツを読むこと自体が目的」じゃなくて「何かを売る・誘導する・送客する」のが主目的のメールばかりを配信するニュースレターはSubstack的な考えとは異なる、って感じですかね。 Substack は自分たちを「読み物を届ける場所」として定義してて、「何かを売るための導線」になることをメインにしている訳では無い、と位置づけているのだと捉えました。
また、 コミュニティの運営についても、運営側が上からジャッジしていくというよりは、書き手と読み手それぞれの自律に委ねるスタンスが取られています。
“writers are responsible for moderating their own communities as they see fit and readers for curating their own experiences.”
(書き手は自分のコミュニティを自分の判断でモデレートする責任を負い、読み手は自分自身の体験を自分でキュレートする)
この読み手がキュレートする(選び集めて整理する)ってのもアルゴリズムに支配されていない感じが他のSNSと異なる部分だなと感じました。自分の好きな書き手の発信を読む、好きな書き手がいいねしたりリスタックしたものがオススメとしてタイムラインに流れてくる。 自分の閲覧履歴に基づいてアルゴリズムで決まるのではなく、フォローしている人の感性によってタイムラインが形成されていくのも他のSNSとは構造が違いますよね。
一通り読んで感じたのは、Substack が守ろうとしているのは「自由な言論」と「編集コンテンツの質」の両方で、そのためにプラットフォーム側は最低限の安全弁だけを持ち、あとは書き手と読み手の自治に任せる。そういう静かな信頼が、このガイドラインの根っこにあるのかなと感じました。
1. 創業哲学・存在理由
最初のカテゴリーは、Substack がなぜ存在しているのか、創業者たちの言葉で語られた記事を 2 本選びました。
1-1. Society has a trust problem. More censorship will only make it worse
社会は信頼の問題を抱えている。検閲を強化すれば、事態はさらに悪化するだけだ。
Chris Best / Hamish McKenzie / Jairaj Sethi 共同(2022 年 1 月 27日)
Substack 創業者 3 人の連名で書かれたマニフェストのような文章です。社会が抱えているのは「情報の問題」ではなく「信頼の問題」であり、検閲を強化するほど信頼は失われていくのだ、ということが核心の主張として書かれていました。Substack の方針が「ハンズオフ(過剰に手を出さない)」である理由が、創業者自身の言葉で説明されているのが伝わってきます。
“Knowing that they are on a platform that defends freedom of expression can give writers and readers greater confidence that their information sources are not being manipulated in some shadowy way. To put it plainly: censorship of bad ideas makes people less likely, not more likely, to trust good ideas.”
(表現の自由を守るプラットフォームを利用しているという認識があれば、書き手と読み手は情報源が何らかの形で不正に操作されていないという確信をより強く持つことができます。端的に言えば、悪いアイデアを検閲することは、良いアイデアを信頼する可能性を高めるのではなく、むしろ低くするのです。)
現在のソーシャルメディアや、テレビ・新聞・ラジオといった伝統的なメディアでさえも、人々の注目を集めようと必死になっています。敵対するものに対してヘイト発言や悪質なレッテルを貼って貶めるなど、排除の方向に過激化している。それを上から封じようとしたところで、別の場所で同じことが繰り返されるだけだ、と。
だからこそ Substack は異なるアプローチを取り、読み手と書き手に力を委ねることで信頼の問題に向き合おうとしている、という立て付けです。0で紹介したコンテンツガイドラインは存在していますが、一部の人々にとって不快に受け取られる記事があっても、運営側として原則として介入しない、という姿勢を貫いています。あくまでも書き手と読み手の自治に任せる、というのがSubstackの方針ということですね。
人を誹謗中傷するような内容や嘘やデマに溢れた記事はしっかりとガイドラインで否定しつつ「表現の自由」の範囲はあくまでも利用者の倫理に委ね、ふさわしくないと思われる記事からは読み手が自然と離れていく。そういった自浄作用によりSubstackの秩序が保たれているのかも知れません。
Substack のモデレーション哲学について、賛成する側にしても批判する側にしても、まず一次資料として読んでおく価値のある 1 本だなと感じました。後のモデレーションをめぐる論争を理解する土台にもなる気がします。
1-2. In service of writers
書き手に仕える。
Hamish McKenzie (2024 年 4 月 12日、個人 Substack)
McKenzie が創業理念を改めて自分の言葉で書き直した文章です。
“We didn’t start the company in 2017 because we were greedy capitalists. Writers weren’t exactly the most lucrative customer base at that time. We did it because we wanted to help writers and give them more power. ”
(2017年に会社を始めたのは、私たちが貪欲な資本家だったからではありません。当時、ライターは必ずしも最も収益性の高い顧客層ではありませんでした。私たちは、ライターを支援し、彼らに力を与えたいと思ったから始めたのです。)
基本的にライターというのはメディアに掲載してもらって原稿料をもらったり、ブログサイトでの閲覧数に応じて広告収入が入るなどの形態で収入を得ていることが多いですよね。立場としては強くはない。そうなるとライター自身に書きたいことがあったとしてもメディア側の裁量によって記事がボツにされたり、プラットフォーム側の介入によってアカウントがBANされて収益が停止したり、積み上げてきたフォロワーとの関係が消えてしまったりと、縛られる立場である事が多かったかと思います。
そこへSubstackが今までの構造を変えてライターに力を与えるプラットフォームとして、立ち上がったということですね。日本では「まぐまぐ」などのメルマガプラットフォームは存在していますが、あくまでも場所を間借りして「メルマガ発信を代行してもらっている」という関係かなと思うのでSubstackとスタンスとはやや異なる印象です。
コンテンツや購読者情報も発行者に委ねられSubstackから出ていきたい時はそれが出来るようになっている。「書き手に仕える」という姿勢が、ただのマーケティング文言ではなく経営判断の根本に置かれているのが伝わってきました。
2. 書き手の主権・所有権
「自分の読者」「自分の文章」を所有するという Substack の根幹の考え方が表れている記事を 2 本選びました。
2-1. Why we built a social network
なぜ私たちはソーシャルネットワークを作ったのか。
Hamish McKenzie (2025 年 10 月 24 日、個人 Substack)
Substack が Notes(短文投稿機能)を作った理由を、McKenzie が改めて整理してくれている文章です。「他の SNS は書き手と読み手の関係を握りたがる、私たちは違う場所を作りたかった」という主張が中心にあって、SNS の作りの違いが書き手と読み手にとって何を意味するのか、腑に落ちる記事でした。
“Those other social apps don’t really care about writers and creators. Their interests lie in creating a big, closed garden where you’re not in control. (...) A place where you own your audience relationships, you own your content, and you have the freedom to leave whenever you want.”
(他の SNS は書き手やクリエイターのことを本当には気にかけていない。彼らの関心は、あなたがコントロールできない大きな閉じた庭をつくることにある。私たちは、あなた自身が読者との関係を所有し、コンテンツを所有し、いつでも離れる自由を持てる場所をつくりたかった)
2017年からサービスを提供しているSubstackですが、短文投稿のNotesは最初から実装されていたものではありません。2023年4月にその機能が実装され、あまりにもTwitter(現X)に似ていたということもあり、当時イーロン・マスクとのバトルに発展しています。
しかし機能が似ているように見えますが、今のアルゴリズムに支配されたSNSを作りたかった訳ではありません。バズを狙って高いエンゲージメントをユーザーから集めるためのゲームと化してしまったSNSではなく、私も(きっとあなたも)Substackに入ってきたときに感じた、「いにしえのTwitter感」。アルゴリズムではなく人の口コミ(いいねやリスタック)によって構成されているタイムラインこそ、良い書き手に出会うための、良い読者に見つかってもらうための最良の手段だと考え、Notes機能をリリースしたのだと受け止めました。
だからこそAIによる投稿自動化やBotなどがあまり機能しない、というか役に立たないし馴染まない。「あの人がオススメしてるから読んでみようかな」という人間によるつながりを増やしていくことこそSubstackが目指している形なのだなと実感しました。
思想があってそれを実現するための機能として実装されている点は、アプリ開発や教材開発などユーザーにサービスを提供している人にとっても良い記事だと思ったので、気になるかたはご一読くださいませ。
2-2. Now is the time for creators to build on their own land
今こそ、クリエイターが自分の土地に家を建てる時だ。
Chris Best / Hamish McKenzie / Jairaj Sethi 公式ブログ(2025 年 1 月 21 日)
「rented land(借り物の土地)の上に家を建てるのはやめて、自分の土地に家を建てよう」という比喩で、書き手が SNS プラットフォームに依存することのリスクを語った記事です。「家」と「土地」に例える表現は、2024〜2025 年の Substack 記事の中でも繰り返し使われる中心的な比喩になっているなと感じます。
“Relying on them alone is like building a house on rented land. (...) A house of bricks, resistant to the big bad wolves of the internet.”
(SNS だけに頼るのは、借り物の土地の上に家を建てるようなものだ。私たちが目指すのは、インターネットの大きな悪い狼に吹き飛ばされないレンガの家だ)
この記事が出された当時、アメリカでTikTokが利用禁止にされるかどうかで話題になっていた時期でした。XでもThreadsでもYouTubeでもそうですが、そのプラットフォーム上でのフォロワーはあくまでもクリエイター個人には直接紐づいておらず、プラットフォーム側が管理しているものになります。(認知的に紐づいているという点は一旦置いておきます)会社の顧客情報みたいなもので、そこを離れるとなったときには持ち出せないのが通例です。アカウントがBANされてしまえばそれまでの積み重ねはゼロに。収益化していたとしてもプラットフォーム側の意向によって無に帰すこととなります。
Substackではこのプラットフォームに「間借りしている状態」ではなく、クリエイターが「土地を所有している」状態を提供してくれています。この土地の上でクリエイターは発信活動や作品を展示し、コアなファンとの関係を深めて行くことが出来ますし、Substackが気に入らなくなれば購読者情報ごと他の場所へ移動することも出来るようになっています。Substackはクリエイターとフォロワーを仲介しているのではなく、クリエイターが活動するためのインフラを提供してくれているのです。
一方、記事内では書かれていませんがクリエイターに裁量が与えられる代わりに、決済周りやユーザーの個人情報管理などの責任も負うこととなります。Substackは土地を提供してはくれますが、その土地で起きた事故(例えば個人情報の流出など)の責任はクリエイター側にある、ということも忘れてはいけません。
そんな事も考えながら「自分のメディアを持つとはどういうことか」を、読み手に分かる形で言語化してくれている、良い記事だなと感じました。
3. モデレーション・自由表現
Substack の議論で必ず話題になる「どこまで許容して、どこから止めるか」という論点について、創業者たちがどう考えてきたのかが伝わる記事を 2 本選びました。
3-1. Substack’s view of content moderation
Substack のコンテンツモデレーション観。
Chris Best / Hamish McKenzie / Jairaj Sethi 公式ブログ(2020 年12月23日)
Substack が初めてモデレーションについての立場を明示した、3 人連名の初期マニフェストです。「私たちは書き手と読み手に決定権を渡す」「ヘイトや脅迫や違法行為は許さないが、議論や意見の対立は止めない」というラインの引き方が、ここで設定されたんだなということが分かります。
“Our goal is really putting readers and writers in charge of this.”
(私たちの目標は、これを読み手と書き手の手に委ねることだ)
記事の冒頭で「Substackはソーシャルメディアプラットフォームとは異なります」と宣言しているところからして面白いですよね。強い意志を感じます。そう言ってたのに先に紹介したTwitterみたいな機能が出てきた時には、既存ユーザーが「えっ?」ってなってしまったのもわかる気がします。(結果として芯は一貫していると思いましたが)
そしてこの記事の中で説明されている「読者は自分が見るものを完全にコントロールできる」という部分はSubstackの魅力の一つだなと、使っていて感じています。
他のSNSは自分の閲覧履歴や行動に基づき、エンゲージメントが高まるように次々と(頼んでもないのに)オススメしてきますよね。ミュートやブロックも出来ますが、類似する望んでいない投稿がどんどん湧いてくるあの感覚はどうしてもスッキリはしませんでした。
その点Substackは自分の本棚をお気に入りで満たすようにタイムラインをカスタマイズが出来るところが、使っていて心地よいなと感じる点です。偏った情報だけが流れてくるフィルターバブルに近いような気もしますが、あくまでも自分でキュレーションした投稿を選んで読んでいるので、アルゴリズムによって無意識に自動的に最適化されたそれとは異なるものだと考えます。
見たいとは思っていない投稿によってタイムラインや自分の時間を奪われるのは本望ではないので、読みたいものを読むために適しているツールだ、と割り切ってスッキリ使うようにしています。
このスタンスが既存のSNSとことなる点、エンゲージメントを高めて広告収益を最大化するためのツールではない、ライターの購読によって成り立っているプラットフォームならではのスタンスだなと感じます。後のすべての論争の参照点になっている記事だと思うのでご一読ください。
3-2. Escape from Hell World
ヘル・ワールドからの脱出。
Hamish McKenzie (2024 年 6 月 10日、個人 Substack)
人気書き手の Luke O’Neil が Substack を離れた件について、McKenzie 本人が書いた「弔辞」のような記事です。離脱を恨むのではなく、「彼が去る力を持っていたことを誇りに思う」と書いているのが印象的でした。
“I remain deeply sad that Luke isn’t publishing on Substack anymore, but I am happy he had the power to leave. (...) Luke’s particular case might suck for Substack, but it is good for the world.”
(Luke がもう Substack で発信していないことは、本当に悲しい。でも彼が去る力を持っていたことは、嬉しく思う。Luke のケースは Substack にとっては痛手かもしれないが、世の中にとっては良いことだ。)
アメリカで複数のメディアに寄稿していたフリーランスのジャーナリストとして働いていたルーク・オニール。彼がSubstackに主軸を置き、それまでの稼ぎを大きく上回る有料購読者数を獲得していたのにもかかわらず、なぜSubstackを去ってしまったのか。
創業当初からライターの立場を何とかしたい、SNSやメディアを支配している「アテンション・エコノミー」に縛られているうちはライターとしての尊厳を取り戻せない、という一貫した強い思いで決断と行動する創業者McKenzie。このあとの記事でも紹介する「SubstackPro」騒動以降のモデレーション方針の変化やSubstackに対するイメージの変容がもたらした大きな影響がストーリーとして綴られています。
「書き手が自分の意思でいつでも去ることができる」というのが、口先で言うだけでなく実際にどういう姿勢で運用されているのか、ということが伝わってくる事例として読めるなと思いました。
4. 新しい経済モデル
Substack が「広告ではなく、読者からのサブスクリプション」を選んだ理由について語られている記事を 2 本選びました。
4-1. A new economic engine for culture
文化のための、新しい経済エンジン。
Chris Best / Hamish McKenzie / Jairaj Sethi 公式ブログ(2023 年 2 月 28 日)
Substack 全体の有料購読が 200 万を突破した時点で、創業者 3 人が「私たちは文化のための新しい経済エンジンを作っているのだ」と宣言した文書です。広告依存のメディアモデルの何が壊れていて、サブスクリプションでそれをどう作り直そうとしているのか、ということが端的にまとめられていました。
“Great work is valuable and deserves to be rewarded with money.”
(優れた作品は価値があり、金銭的な報酬を受けるに値する。)“The people have the power.”
(人々には力がある。)“A free press and free speech are fundamental to a trustworthy media system.”
(報道の自由と表現の自由は、信頼できるメディアシステムの根幹を成すものです。)“We help readers take back their minds.”
(私たちは読者が自分の心を取り戻せるようお手伝いします。)“Build a new economic engine for culture.”
(文化のための新しい経済エンジンを作る)
自分の心を取り戻すお手伝いをする!?と一瞬びっくりしましたが、確かにSNS漬けの毎日の中で、プラットフォームのアルゴリズムに支配されたコンテンツが提供されつづけ、受動的に刺激を受け取っているだけになっている節は否めません。自分の中の思考や感情までもがSNSのアルゴリズムによって大きく左右されていたのかも知れないですね。自分でメディアとの付き合い方を決める、という事を考えさせられる記事となっていました。
コメント欄での活発な議論も含めて当時の利用者がどのような受け止めだったのかが分かる記事となっているので、その辺も注目です。
4-2. Why we pay writers
なぜ私たちは書き手にお金を払うのか。
Hamish McKenzie 公式ブログ(2021 年3月13日)
先程少し触れたSubstack Pro(特定の書き手に前金を払う制度)が「公平か」と批判された時に、McKenzie が書いた記事です。「ジャーナリズムの市場崩壊に対して、誰かが具体的な前金を出して書き手を支える必要があるのだ」という論理が展開されています。
“Writers have been the victims of a massive market failure. (...) But now, to us at least, it seems obvious.”
(書き手たちは巨大な市場の失敗の犠牲者だった。少なくとも私たちにとっては、何をすべきかは明らかだ)
ライター数名に1万ドルから3万ドル(150万円〜450万円ほど)を先渡しして記事を書いてもらい、初年度は購読料の85%を手数料として回収する。次年度以降はライターから通常通り10%を手数料として回収するというビジネスモデルとしてSubstackProは実験的に始まりました。(2022年にSubstackProの取り組みは終了しています)
どうすれば質の良い記事をSubstackに増やし、かつ読み手が書き手に対して課金するモデルを軌道に乗せる事が出来るのか。良い記事が投稿されたところでその書き手に対して課金するユーザーがつくことは簡単ではないし、長い時間をかけて信頼関係を築いたうえで有料購読へとステップアップしていく。その期間を支えるための「SubstackPro」という実験だった、と解釈しました。
3-2. Escape from Hell World をお読みいただいたらわかるのですが、当時はかなりの騒動だったようで、このプログラムをはじめた意図や思いなどが語られています。コメント欄でも活発に議論がされており、まるで記者会見のような雰囲気です。
ライターが読み手から直接課金してもらうSubstack の収益モデルの難しさとそれを成り立たせるための試行錯誤を知るのに、役立つ 1 本でした。
5. メディアの新地平
メディアと社会の関係そのものを、Substack がどう書き換えようとしているのか、という大きな構想が語られている記事を 3 本選びました。
5-1. From the temple to the garden
神殿から、庭へ。
Hamish McKenzie (2025 年 4 月 3 日、post.substack.com)
私の感覚では、Substack 思想を理解する上でいちばん重要な 1 本だなと感じています。先日公開したChrome拡張機能を作る際にも「Substackの思想」を取り入れるために大きく影響した記事です。
後の TED Talk の元ネタにもなった文章ということで「temple(神殿)型メディア」と「chaos(混沌)型メディア」を経た先に「garden(庭)型メディア」がある、という McKenzie 自身の世界観が言語化されています。
“A distributed system that gives economic autonomy to independent voices resembles a garden more than a temple. Handled with the right care, it can bring order to social media’s bedlam. (...) You can reclaim your attention from the doomscroll feeds and pour it like water onto the seedlings of a better future.”
(独立した意見に経済的自律性を与える分散したシステムは、神殿よりも庭に似ている。適切に手入れすれば、SNS の喧騒に秩序をもたらすことができる。あなたは自分の注意を doomscroll の餌から取り戻し、より良い未来の苗木に水のように注ぐことができる)
今まさに既存のメディアからの民主化していっている過渡期の真っ只中なのかも知れないですね。各種SNSで優良な記事を投稿して多くの反応を集めたとしても、そこで得られる経済的利益の多くはプラットフォーム側に集中していきます。そうなれば書き手としてはいかにしてプラットフォームに優遇されるかの”ハック”を行うようになり、運営側に迎合した記事ばかりが増えるようになってしまう、というのが今のメディア構造になっています。
そのシステムにNoを突きつける形で存在しているのがSubstack。「独立した意見に経済的自律性を与える」という部分が、運営側に迎合せず意見の多様性を確立するための機構になっています。もちろんその独立した意見が賛同を集められず読み手から支持されない場合は経済的自律性を獲得できないわけですが、他のメディアではそもそもチャレンジすら出来なかったりするわけで、その点Substackはメディアの民主化としての門戸が開かれているのかなと思います。
SNSを含めたこのメディアのカオス期を経て、プラットフォームに仲介されない新たなメディア時代へ。Substack の自己定義「私たちは別の山を登っているのだ」を、McKenzie 自身の言葉で語ってくれている文書だと思います。Substackを含めたメディアの未来がどの様に変わっていくのか、ともに見届けましょう。
5-2. Civilization on the electronic frontier
電子のフロンティアにおける文明。
Hamish McKenzie (2025 年 7 月 23 日、個人 Substack)
1996 年に John Perry Barlow が書いた「サイバースペース独立宣言」へのオマージュとして、McKenzie が現代のインターネット文明論を書いた記事です。「Apps first, ethics later(先にアプリ、倫理は後)」型の SNS への明確な批判と、Substack が選ぶ別の道とが並べて書かれていて、対比がはっきりしている文章でした。
“The robots may process information in unimaginable volumes, but we people can still hold the agency. Our minds, freely thinking together in cyberspace, can be the ultimate guardians of humanity”
(ロボットは想像を絶する量の情報を処理できるかもしれないが、私たち人間は依然として主体性を保つことができる。サイバースペースで自由に共に思考する私たちの心こそが、人類の究極の守護者となり得るのだ。)
少し抽象度の高い記事ですが、「Substack はなぜ単なるニュースレターSaaS と違うのか」を哲学レベルで知りたい時に、必要な 1 本だと感じました。
1996年から進んだ現在のインターネット環境において、AIコンテンツを含んだ情報過多な各種SNSプラットフォームでは、ユーザーの注目を集めることで勝者を決めるゲームばかりを行っています。プラットフォームがそのようなルールに変更してきたため仕方ないですが、プレイヤーはフォロワー数を増やし、いかにしてバズを生みだしてインプレッションという得点を稼ぐかに必死になっていきます。そのゲームの中でインプレッションを多く稼いだプレイヤーは多少の恩恵を得られますが、真の勝者は常にプラットフォーム側である、というのが現在のSNSゲームの実態となっていると思います。
このようなインターネット上のカオスなSNSゲームから降りて、現実の人間同士のつながりを取り戻すためのインフラとしてSubstackは日々試行錯誤している。そんな行動を創業時から一貫しているMcKenzie の思想を感じられる記事でした。
5-3. A simple vision for the future of media organizations
メディア組織の未来に向けた、シンプルなビジョン。
Hamish McKenzie (2025 年 4 月 16 日、個人 Substack)
「伝統的なメディア組織は、書き手を所有するのではなく、支える形に変わるべきだ」という、メディア組織論の記事です。書き手として独立を考えている人にも、既存のメディア組織にいる人にも、自分の立ち位置を考える材料を与えてくれる文章だなと感じました。
“The most successful media organizations of the future will provide a structure that supports and invests in talent while sharing the financial rewards.”
(未来において最も成功するメディア組織は、書き手を支え、書き手に投資し、その経済的な見返りを書き手と分かち合う構造を持つだろう)
Substackで記事を書いているからと言ってこのプラットフォームに「所属している」訳では無いし雇われているわけでもないですよね。これまでの多くのライターの立場としては、組織に雇われるかフリーランスとしてクライアントから対価を受け取って記事を書いている事が大半だったと思います。
ブログサイトやSNSで記事を投稿して収益を得ていても、それもまたプラットフォームに対して「記事を寄稿している」形に近くて、自分のメディアとして運営しているのとは異なります。
では自分のサイトで記事を投稿してるのはどうかというと、収益を発生させるのは広告収入もしくはアフィリエイトがメインで、記事に対してやライターに対して対価が払われるような構造には繋がりにくい状況です。そもそも独自サイトではアクセスを集めることすら難しいので、プラットフォームという検索優位性のあるドメインに乗っかることが、記事を広く見てもらうための最短ルートだ、というのが最近の考え方なのかなと思います。
Substackが発展してほしいからそのために貢献したい、という気持ちではないしそんな実力は微塵もないですが、このプラットフォームが続いてほしいなと思う気持ちは多少なりとも芽生えてきたので、それならば読み手に課金してもらえる良質な記事を書けるように色々と挑戦してみようかな、という気持ちになってきます。
「Substack に書き手として登録する」ことと「Substack が世の中をどう変えようとしているか」が、組織論として繋がってくる記事でした。
6. AI 時代と書き手
最後のカテゴリーは、ここ 2 年で最大の論点となった AI に対する Substack の立場が表れている記事を 2本選びました。
6-1. The AI revolution is an opportunity for writers (the human kind)
AI 革命は、書き手(人間のほうの)にとってチャンスである。
Hamish McKenzie (2023 年 12 月 14 日、公式 blog)
タイトルに「(the human kind)」と括弧書きを入れている時点で、Substack が AI に対してどういう立ち位置を取っているのか伝わってくる文章だなと思います。「人間の書き手」と「AI 生成コンテンツ」のあいだに線を引いた、Substack の最初の明示的な意思表明だと思います。
“After all, these new machines are trained on a vast corpus of work produced by humans. And those humans, most of whom have never found a way to turn their art into riches, aren’t getting compensated along the way.”
(結局のところ、これらの新しい機械は、人間が生み出した膨大な作品群に基づいて訓練されているのだ。そして、そうした人間たちの多くは、自らの芸術を富に変える方法を見つけられず、その過程で何の報酬も得られていない。)
「コンテンツは文化ではない」という言葉も印象的でした。生成AIでつくられた「コンテンツ」がSNSで多くのインプレッションを集めるために日々タイムラインに放流されています。しかしコンテンツ「単体」だけではただ消費されるのみで、それそのものだけでは「文化」にはなり得ない、ということだと受け止めました。
コンテンツを媒介にして人々の間に行動が伴い、その人々の間で徐々に文化として醸成されていくのだと考えます。生成AIを使った画像でも映像でも文章でもそれは同じで、コンテンツそのものだけでは基本的には大した価値は生まれず(稀にとんでもない作品には出会いますが)、その生成物を通して人間同士が交流することによって文化が育まれていく。その行動にこそ価値がある、ということを忘れないようにしていきたいと思います。
AI 時代の書き手として自分の立場をどう取るのか、ということを考える出発点として、この 1 本は読んでおく価値があるなと感じました。
6-2. The Substack AI Report
Substack AI レポート。
Arielle Swedback 公式ブログ(2025 年 7 月 25 日)
Substack が初めて出した、AI 利用実態調査と公式立場表明のレポートです。約1年前の記事なので、現在はもっとAI活用の割合が多くなっているかも知れません。その中で、「本物の人間の文章と動画は、(AIで生成したコンテンツという)ノイズの中で求められ、価値づけられるようになる」という結論が、Substack のコンセプトとして打ち出されていました。
“The speed with which the tech can create passable content means that we will soon be inundated with machine-generated words. Authentic human writing and video will be sought out and prized above the noise.”
(テクノロジーがそれなりのコンテンツを生成できるスピードを考えると、私たちは間もなく機械生成の言葉に溢れかえることになるでしょう。本物の人間による文章や動画は、そうした雑音の中から求められ、高く評価されるようになるでしょう。)
面白い結果の一つとして、AIの導入と収益の間に相関関係は見られず、収益レベルに関わらずAIの利用率は同程度だったとのこと。AI使って書けば伸びるわけでもないし、AIを使わなかったから伸びる、というわけでもないようです。
またこのレポートの中ではAIを使う用途としては、調査・執筆支援・アイディア出しとして使う用途が多いという結果となっていました。直接的にAIがコンテンツを作成するというよりも、サポートとしてAIを使っているような感じですね。
また、失読症の人や盲目の人がAIのアシストを受けて文字を使ったプラットフォームに参加している、というのもAI活用の一つの例です。私も今こうやって、英語の記事を読みながら感想を書けているのもAIによる翻訳が大きく関わってますし、一口に「AIを使う」と言っても様々ということですね。
書き手として「AI を道具として使う」ことと「AI に文章を書かせる」ことの違いを、自分の中で言語化していくための材料になる 1 本でした。AIで生成したコンテンツが溢れる世の中では人の作ったコンテンツがプレミアムとなる、とありましたが人が作っていれば何でも良いわけではないですよね。より良いコンテンツを自分の手で生み出していく力をコツコツと磨いていく必要を感じました。
Substackではその訓練としてアウトプットを行っていくのにとても適していると思います。
おわりに
14 本をカテゴリーに分けて並べてみました。私の感想も添えてみましたが1年後にはまた違った視点から考えるようになっているかも知れません。
もし気になる記事があったらぜひ、1 つずつ読んでみてください。私自身、これらを一気に読んだわけではなく、Substack で発信を続けていく中で、必要だと思った時にちょっとずつ読んできました。
ひとつ強調しておきたいのは、これらの記事は「Substack を攻略する方法」を書いたものではない、ということです。フォロワーを増やす方法も、収益化のテクニックも、SEO のコツも、ここには書かれていません。書かれているのは、Substack というサービスがなぜ存在しているのか、創業者たちは何を作りたいのか、書き手と読み手の関係をどう設計したいのか、メディアと社会の関係性をどうしたいのか、という思想と哲学です。
このリストが、Substack でこれから書き始める人、または今いる場所の意味を確かめたい人にとって、何かの助けになれば嬉しいです。
2026-05-30 サウス






